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名古屋地方裁判所 昭和29年(行)28号 判決

名古屋市東区山田東町一丁目五十五番地

原告

木下滋康

右訴訟代理人弁護士

森健

名古屋市東区白壁町四丁目二十二番地

被告

名古屋東税務署長

佐藤英治

右指定代理人

宇佐美初男

右指定代理人

服部守

右指定代理人

渾川武

右当事者間の昭和二十九年(行)第二八号課税処分並滞納処分無効確認請求事件につき、当裁判所は次のように判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十七年八月十五日附をもつて原告に対してなした昭和二十七年度酒税を金六十六万六千七百四十円とする旨の決定は無効であることを確認する被告が右決定にもとづき原告に対し昭和二十八年十二月十一日別紙第一号目録記載の電話加入権につき、同二十九年六月九日別紙第二号目録記載の不動産につきなした滞納処分としての差押は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、被告は昭和二十七年八月十五日原告に対し昭和二十七年度酒税を金六十六万六千七百四十円とする旨の決定をなし、次いで右決定にもとづく滞納処分として、昭和二十八年十二月十一日別紙第一号目録記載の電話加入権を、同二十九年六月九日別紙第二号目録記載の不動産をそれぞれ差押えた。

しかしながら、原告は酒類の製造販売をしたことがないから、酒税を負担すべき義務はない。被告のなした前記課税処分及びこれにもとづく滞納処分としての差押はいずれも法律上不能を内容とするものであつて無効であるから、その無効確認を求めるため本訴に及んだと陳述し、立証として甲第一号証を提出し、証人延金福童、林春子、木下征子の各証言並びに原告本人尋問の結果を援用し、乙第十八ないし第二十三号証、第二十六、第二十七号証の各一、二、第二十八号証の各成立を認め、その余の乙号各証は不知と述べた。

被告指定代理人等は主文同旨の判決を求めて答弁として、原告主張事実中被告が原告主張の日時原告に対してその主張のような課税処分及びこれにもとずく滞納処分としての差押をなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は名古屋市東区東矢場町二丁目十五番地の原告方において昭和二十五年四月頃より同年十一月までの間にアルコール分二十五度の乙類焼酎十七石七斗を、同年十二月より翌二十六年二月までの間に右と同質の焼酎七石九斗を製造したので、被告は右事実にもとづき、原告に対し前記の課税処分をなしたものである。仮に原告が前示焼酎を単独に製造したものでなく右課税処分に過誤ありとしても、被告のなした課税処分は単に取消し得べき行政処分であるに止まり、当然に無効となるものではない。しかして原告は前記課税処分につき不服ならば、国税徴収法に従い再調査及び審査の手続を経てから出訴すべきであるのに、これを経ていない原告の本訴請求は不適法として却下されるべきであると述べ、立証として、乙第一ないし第二十八号証(但し第一号証、第二十六、第二十七号証は各一、二)を提出し、証人菊田繁雄、山内政見、遊木幸生、石原佑、辻邦司の各証言を援用し、甲第一号証の成立を認めた。

理由

被告が昭和二十七年八月十五日附をもつて原告に対し昭和二十七年度の酒税を金六十六万六千七百四十円とする旨の決定をなし、次いで右決定にもとづく滞納処分として昭和二十八年十二月十一日別紙第一号目録記載の電話加入権を、同二十九年六月九日別紙第二号目録記載の不動産をそれぞれ差押えたことは当事者間に争がない。

ところで原告は、被告主張の如き焼酎を製造した事実はないと主張するので、この点につき判断する。成立に争のない乙第十八、第十九号証、第二十一ないし第二十三号証、証人山内政見の証言によりその成立を認めうる乙第三、第四号証、第八号証、第十ないし第十四号証、証人石原佑の証言によりその成立が認められる乙第二十四第二十五号証及び証人辻邦司の証言を総合すると、原告は訴外菊田繁雄に対し正常な製造過程を経ない所謂密造焼酎を次の如く.十八回に亘り売渡したことが認められる。

(一)  昭和二十五年五月 一石

(二)  五月 五斗

(三)  六月 一石

(四)  六月下旬 二石

(五)  七月 五斗

(六)  七月 一石

(七)  七月下旬 一石五斗

(八)  八月 一石

(九)  八月中旬 一石五斗

(十)  九月 一石

(十一)  九月下旬 二石

(十二)  十月 一石

(十三)  十月十五日 一石

(十四)  十一月 一石

(十五)  十一月四日 二石

(十六)  十二月二十五日 二石

(十七)  昭和二十六年一月十七日 二石

(十八)  二月七日 三石九斗

合計 二十五石九斗

証人菊田繁雄、原告本人の各供述並びに乙第三ないし第六号証、第十二号証中右認定に反する部分は措信できない。しかして証人山内政見の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証の一、二によれば、大蔵事務官訴外荒井春吉が昭和二十六年二月二十六日原告に対する酒税法違反事件について、名古屋市東区東矢場町二丁目十五番地の原告方を捜査したところ、焼酎の製造に使用したと思料される瀘過綿瀘過紙が発見されたことが認められ、右事実と前記の如く原告が菊田繁雄に対し継続して多量の密造焼酎を販売した事実及び弁論の全趣旨とを総合考量すると、原告が訴外菊田繁雄に対して売渡した前記焼酎はいずれも原告の製造に係るものであることが推認できるのである。乙第三号証中には原告は訴外伊藤某が製造した焼酎を販売したに過ぎぬ旨の記載部分があるけれども、右は証人山内政見の証言及び成立に争のない乙第十六号証に照らして信用するに足らず、又被告主張に副う乙第二ないし第六号証の各記載、原告本人尋問の結果も当裁判所の容易に措置し能わぬところである。次に原告が前記焼酎を製造した日時について考えるに、この種密造業者は製品を長期間所持すれば官憲に摘発される恐れがある故製造後直ちに処分することを常とするであろうから、原告が前記焼酎を製造した日時はそれぞれ菊田繁雄に売渡した日の直前又は少くともその前十日以内であると認めるを相当とする。しかして訴外菊田繁雄が前記の如く原告より買受けた焼酎(右は更に同人より訴外菊野松次郎に売却せられたこと成立に争のない乙第十八ないし第二十号証によつて明かである)は証人辻邦司の証言及び同証言により真正に成立したと認められる乙第二十八号証によると、アルコール分二十五度であることが明らかであるから、原告が製造した前記焼酎はいずれもアルコール分二十五度であると推定するを相当とする。

そこで以上認定の事実を基礎として酒税法を適用すれば、原告は昭和二十五年四月より十一月までの間に製造した焼酎十八石について基本税三十六万七千二百円、加算税十八万円、昭和二十五年十二月より翌二十六年二月までに製造した七石九斗について基本税十万千八百円、加算税四万二千九百円(以上合計六十九万七千三百円)を課税され得ること計数上明かである。

よつて右金額の範囲内において被告が本件についてなした課税処分は相当であり、又これにもとづく滞納処分としての差押も適法というべきである。

かようなわけであるから、原告の本訴請求はその余の点について判断を加えるまでもなく失当である故、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山口正夫)

第一号 目録

名古屋中央電話局

東局 第七二五番

千種局 第二二七一番

第二号 目録

名古屋市東区山田東町一丁目五十五番

家屋番号 第五十五番

一、木造瓦葺平屋建居宅

建坪 十一坪一合

一、木造瓦葺平屋建工場

建坪 三十六坪

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